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愛しさと切なさとエスプレッソ

パンとマンションが好きな人のブログ

軽石とシンカイくん

小学校の頃、実家のお風呂に軽石が置いてあった。

僕は初め、それが母の角化したかかとの皮膚を削るものと知らず、湯船に浮かべておもちゃにしていた。

小さい頃はかかとの皮膚が固くなる事なんて想像つかなかったし、それを削って柔らかくする理由も分からなかった。

正しい使い方を聞いてから僕は試しに自分の柔らかいかかとを軽石でこすってみたが、何も変わらず、すぐに止めてしまった。

 

小学校5年の時に好きな人がいた。

シンカイくんという人だ。

 

シンカイくんは、色が黒くて目の大きい人だった。少しだけ魚っぽい顔をしていて、名前がシンカイなのも魚を彷彿とさせた。

シンカイくんは、すごくイケメン、という感じではなかった。

ただハキハキとものを言い、弁が立って頭が良く、字も上手だった。

僕はテストで毎回シンカイくんに数点及ばず、初めて勉強で悔しいと思い、家で泣いた。

 

シンカイくんとは仲が良かったのに喧嘩もよくした。

皆がシンカイくんを下の名前で呼んでいるのに、僕だけ苗字で呼んでいた。

その方が「親密な2人」っぽくて良いと思っていたのだ。小学女子のような思考パターンだが、つまりとても好きだったのだ。

 

身長はシンカイくんの方が僕より少し高かった。

だが社会科見学の時に僕は自分の背がシンカイくんより高くなっているのに気づいた。

なんて事だろうか。好きな人は見上げていたいという、またも小学女子のような思考パターンによって僕は悩み、自分の成長期を呪った。

ちょっと猫背で立ってみても、膝を曲げて立ってみても、油断していると「自分よりも背の低いシンカイくん」に気づいてしまう。

 

僕はお風呂場にある軽石を手にとって、かかとをこすってみた。少しでも僕の身長が低くなればいいと思った。

だけど一生懸命こすっても、全く身長は縮まらなかった。

僕はあっという間にシンカイくんの身長を抜きさり、少し早めにきた成長期に泣いた。

 

あれから何年も経ち、Facebookでシンカイくんの結婚を知った。

Facebookはいつも知りたくもない情報ばかり教えてくれる。

立派に仕事をして、今はイギリスで暮らしているようだ。

「すごくイケメンではないけれど」と当時は思ったけれど、今は知的で誠実と表現すれば良いのか、非常に格好良い仕上がりになっていた。

 

僕のかかとの皮膚は毎日の立ち仕事で厚くなった。

今なら正しく軽石が使えるのに。湯船に浮かべたりもしないし、まして身長を縮めようともしない。