愛しさと切なさとエスプレッソ

パンとマンションが好きな人のブログ

白湯とサクレレモン

「お腹が冷えてますね」

それは通っている鍼灸院の先生に毎回言われる言葉だ。

「夏なのにこんなに冷たいのは珍しいよ。冷たいものをよく食べます?」

と聞かれたから、アイスが好きですと答えた。特に夏はサクレレモンで、チョコモナカジャンボは通年好きですと、聞かれてもない事も答えた。

「冷たいものを食べ過ぎると内臓が疲れるよ。冷たいものを体温まで上げて消化しないといけないからね。アイスは結構な頻度で食べるの?」

先生は聞きながら僕の冷えたお腹に鍼を刺し、火のついたお灸を置いていく。

「週に2、3回くらいかな」

と答えると先生はやや驚いた様子で、それは多すぎだから控えなさいと言った。

お腹に置かれたお灸が熱い。これは罰だろうか。僕は嘘をついた。本当はほぼ毎日食べている。だけど毎日食べていると答えなくて本当に良かったと先生の驚きっぷりを見て思った。

お腹を温めるために朝に白湯を飲むと良いと言われたのでしばらくやってみた。サーモスの水筒にお湯を入れて職場に持って行ったりもした。白湯を飲むとかモデルみたいではないだろうか。道端のダレカシラがやってそうである。

アイスも控えた。僕はサクレレモンの細かい氷片を奥歯で噛みつぶす時の、ガリガリシャリシャリキュウキュウといった感じの歯ごたえや、爽やかな酸味と共にやってくる瑞々しい甘みや、スライスされたレモンを氷と一緒に口に入れた時の幸福感などとしばらくの間距離を置いた。

 

しかしどうだろう、昨日今日の涼しさは。アイスが一番美味しく食べられる時期が終わってしまう。

暑い夜にベランダの窓を開け、足を外に投げ出しながら食べるアイスが一番美味しいと思っているのに、僕はお湯なんかを飲んで一番の時期を逃してしまった。そしてサクレレモンは製造中止になってしまった。

僕は慌ててアイスを買いに行った。もうガリガリ君でもしろくまでも構わない。お腹が冷たいから何なんだよ。勢いよくアイスの包装を剥ぐ。ベランダに投げ出した足の寒さが夏の終わりを告げている。