愛しさと切なさとエスプレッソ

パンとマンションが好きな人のブログ

秋の訪れ

集合ポストを開けるとルミネからのダイレクトメール。年に数回あるルミネの10%オフのお知らせだった。

ところがルミネで買うものがない。買いたいものがない。新宿のルミネに入っている無印でタオルと石鹸を買いたいくらいだ。これでは10%オフの恩恵よりも交通費の方が高い。

ルミネの10%オフでテンションの上がっていた僕はどこに行ったのだろう。収入や暮らし方の変化もあるだろうけれど。年会費の1000円を払う意味はあるのだろうか。

 

iPhoneの画面にはラインの通知。遠くで暮らしていた彼氏が日本に戻ってくるようだ。1年の出張を終え、遠くの国から日本に戻る。離れていたけれど、3ヶ月に1度は一時帰国で戻って来ていた。

5年も付き合っていると、久しぶりの再開でも劇的なものは感じない。いわゆるトキメキみたいなものはどこかに行ってしまったのか、ああ元気そうで良かったねとか、そういった静かな感情だけが湧く。だからある時彼に

「僕のどういうところが好きなの?」

と非常に面倒な質問をした事がある。すると彼は「急にどうしたの?」と驚いていた。僕は急にでも無いんだけど、と思いながら繰り返し聞いてみた。彼は照れ臭いのか、全然関係の無い話をし始めて、結局答えてくれなかった。

大阪出身の彼は、東京よりも大阪を愛している。彼と一緒に大阪に行く時は、僕はうどんを食べたくなる。関西のうどんは美味しいのだ。大阪駅の広い地下道で僕はうどんが食べたい旨を伝えると、彼は「うどんねぇ、うどんもいいんだけどねぇ」と言う。僕はその反応を見て、彼がうどんを食べたい気分ではない事を知る。僕は今日うどんを食べられないだろう事を知る。

「カキフライ食べたくない?」と彼は言い、結局一緒にカキフライを食べた。入った洋食屋で提供されたカキフライは身が大きく、一口噛めばサクッとした歯ごたえの後にぷりっとした牡蠣の弾力。加熱しすぎて身が縮まる事もなく、上手に揚げられた牡蠣はぷっくりとジューシー。口に広がるこってりとした旨味。鼻に抜ける磯の香り。カキフライはとても美味しかった。

カキフライ美味しかったねで終われたらいいのに。厄介なのは僕が、目の前のカキフライよりも食べられなかったうどんについて考えるタイプだからだ。

 

音楽を聞こうとしたら「no disk」の表示。MDデッキが搭載された実家の車。MDなんてほとんど絶滅しているメディアだけれど、僕や兄が録音したMDが車の中には数個残っている。

いつか母が運転する車に乗っている時に「もう、嫌になっちゃうよね」と母が言い始めた。母は大概の事に対して「もう、嫌になっちゃうよね」と言っているので、今度は一体何だと思って聞いてみると「やりたい事がまだまだあるのに、やれないうちに死んじゃうと思うとなんだかイライラしてきちゃって」と言った。

僕は少し衝撃を受けた。加齢と共に興味とか好奇心は薄れてくると思っていたけれど、母の場合はそうでも無いようだ。

 

 

友人から絶交された事がある。小学校の時とかでは無い。社会人になってからだ。こんな年になってあからさまな絶交ってあるんだと驚いた。

何がきっかけだったのか、何が彼の気に触れたのか、果たしてそれが絶縁するほどのものだったのかは分からない。思い当たるのは僕がSMAPの歌詞にケチをつけるツイートをした事だ。すると「斜め上から物を言うのが面白いと思っているのかもしれないけど、全然面白くないしそういう人の心はつまらない」と、要約すればそんな事を当てつけのように彼はツイートし、その後縁を切られた。

彼の指摘はごもっともだった。そんな事は僕も存じ上げております。図星で悔しかったから、集合写真ばかりアップする彼を心が寂しい人と決めつけた。苦しい抵抗だった。

 

いろんな事に興味を失っていく事が怖い。好きが持続しなくなりそうで怖い。心がつまらなくなって行くのが怖い。そういった怖いものに向かって行くと思われる人生が、時々恐ろしい。だからせめて、誰かの好きや興味を否定しないようにしたい。