愛しさと切なさとエスプレッソ

パンとマンションが好きな人のブログ

隅田川

9月3日に退院した。

 

入院が長引き、いつになったら退院出来るのか不安になった時にようやく改善の兆しが見え始めた。食事も少しずつ摂れるようになり、粥から常食になったところで退院となった。予定より10日ほど遅れての退院だった。体重は入院前より4キロ減った。

退院の当日、両親が来てくれた。母はなにやら疲れた様子で口数が少なかった。実際に疲れていたのかも知れないが、どうやら朝早くに両親は喧嘩をしたようだった。ようやく外に出られると喜んでいたのだが、早速僕は言葉を交わさない両親の間のメッセンジャーとなり、退院初日から気を揉んだ。

1ヶ月ぶりに病院の外に出ると夏の盛りは過ぎたようで涼しかった。曇っていて少し風が強かった。外は緑の匂いや湿った土の匂い、埃の匂いや花のような匂いもあって、無臭と思っていた東京の空気は実は様々な匂いに満ちていた。

家に帰る時に病院近くの浜離宮から船に乗った。病院の窓からは築地市場の跡地、隅田川を挟んで月島のマンション群がよく見えた。入院中によく見ていた隅田川を行き交う船にその日は乗り、今度は隅田川から病院を見た。立派な病院だった。僕はいつも外を見ていた15階の窓に向かって手を振った。ようやく解放されたと思った。すごくお世話になったし、医師や看護師さんに恵まれた入院生活であったが、点滴に繋がれた不自由さや、カーテンでしか守られないプライバシーや、排尿後にやってくる痛みを洗面台に手をついて堪えた事は早く忘れたかった。病室の窓とは違い、船からの景色はどんどん変わっていった。外に出られる事が嬉しかった。

 

退院から1週間ゆっくりして、先日仕事の復帰をした。普通に働ける事をありがたく思った。それは本当に、本当に一瞬だけだが。