愛しさと切なさとエスプレッソ

パンとマンションが好きな人のブログ

秋の味覚

「イベルメクチンを買ったので送ります」と母からLINEが来た。

母は一体どこから情報を仕入れてくるのだろう。それより早くワクチン打てばいいのに。

 

年始に母から小包が届き、開けてみると中には肉や米と一緒にアガリクス茸が入っていた。アガリクス茸はだいぶ前に「ガンに効く」と言われ一時期ブームになったものだ。

僕は正月なので良い肉を買ってすき焼きを作ろうとしていたのに、突然のアガリクス茸の登場で気分が落ちた。

「荷物届きました。ありがとう。だけどアガリクス茸は要らないよ。高いでしょ、あれ。しかも効果は認められてないよ。本当に効果があるんだったら既に保険適用で承認されているはずだよね。病気を治したくて藁にもすがりたい人の気持ちを食い物にする商売に1円たりともお金を落としちゃダメ」

と言いたいところだったが、正月なので堪えた。薄褐色の乾いたキノコは僕の目につかないようビニールに包まれ流し台の奥に投げ入れられた。

すると翌月、さらに倍くらいの量のアガリクス茸が送られてきた。調べた事はないが恐らく安くはなさそうなキノコが、「今月分です」というメモと共に小さな段ボールに詰められて送られてきた。やはり送られてきた時にすぐ要らないと断るべきだった。

一度も封を開けていないままのキノコが流し台の奥にあるというのに、更に追加で送られてくるキノコ。この調子だと僕の家はすぐにキノコ屋敷になってしまう。エリンギやしめじだったら素直に嬉しいのに。

試しに一度服用してみようと付属の説明書を読んでみたら

「1日量10gを800mlの水で1時間以上浸し...」で始まったので早速挫けた。面倒臭い。しかも続けて「火にかけて沸騰したら弱火にし30〜40分煮詰める」とあった。それだけ時間があったら柔らかい角煮が作れる。

心の中で毒づきながらキノコを煎じると部屋がキノコの匂いで充満した。出来たものは当然だが、キノコの煮詰まった汁だった。そのまま飲むには飲みにくいが、ふやけたキノコはエリンギの食感に近く、汁はだしの素と醤油を入れたらお澄ましになりそうだった。

後日姉に怪しいキノコが大量に送られてきて困っている旨を伝えたら

「どうせ要らないんだったらちょっと貰おうかな。炊き込みご飯にしたら美味しいかも」

と言われた。姉は他人事だと思って気楽だなと思った。しかし確かに細かく切って炊き込みご飯にしたら食べやすそうだ。その一瞬アガリクス茸のレシピを考える人になろうかと思ったが、全てエリンギで美味しく安く代用できるのに気づいて止めた。

アガリクス茸はその後、食べるとお腹が痛くなると言って送るのを止めてもらった。送られたキノコは結局箱に入ったままベッドの下に置いてある。炊き込みご飯が一体何度作れるだろうか。秋になったら一度くらいは作ってみようと思う。